真相

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次いで、靴音が聞こえる。 「やぁ、槙さん」 「こんにちは。二宮(にのみや)先生」  先程とは打って変わった作り物の声で、槙は笑いかける。 「お茶でも持っていこうかと思っていましたけど、もうお帰りですか」  わざとらしく薬缶ののったコンロを指すと、『二宮』と言われた男は「ああ」と笑った。 「もう少し話したかったけど、院長にも用事があるらしいからね。早々にお暇することにしたよ」 「そうなんですか。そう言えば、今日は新しく来る先生がいらっしゃるとか言っていましたね」 「ああ、院長の姪御さんの推薦なんだって?優秀な人材らしいじゃないか」  ・・・  給湯室の奥で息を顰めながら、海はわざとらしい会話に内心溜め息を吐いた。 「彼女自身、向こうの大学を優秀な成績で卒業してますからね。楽しみです」 「そうだね。それじゃあ」 「ええ。いつも、多額の寄付、ありがとうございます」  槙が、歩き出した二宮の背に向かってそう告げる声が聞こえる。  遠ざかっていく靴音が完全に聞こえなくなった時、槙が溜め息を吐いたのが分かった。
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