真相

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「『どうにもならないこと』っていうのは、結構どこにでも転がってると思うけど?」 「知ったようなこと、言わないでください」  この女(ヒト)はどこまで知っているのか、と生まれた疑問を切り捨てるように、固い口調でバッサリと告げる。  が、彼女は海の方を見ないまま溜め息を吐いた。 「ま、確かにそうね。人間、自分が一番不幸だと思い込んでるのが、一番楽だし」 「喧嘩売ってるんですか」 「少しは自覚あるんじゃない」  間髪入れずに言い返すと、ニヤリと彼女は笑った。  そのまま、遠い目をして口を開く。 「二年前の冬、日生ちゃんの友人だった男の子が亡くなったわ」 「・・・」 「死因は心臓発作。階段から落ちそうになった日生ちゃんを庇って、自分が落ち、動けなくなった時に発作が起こったとか」  語られた内容に眉を顰める。それが本当だとしたら、彼女がそれを放っておくはずはないだろう。 「その時、日生は何をしていたんですか」  責めているわけではないが、自然と彼女を問い詰めるような言葉尻になってしまう。が、槙は堪えた様子もなく煙草の煙を吐いた。 「亡くなった太陽(たいよう)は、日生ちゃんを抱えるような形で落ちたらしいけど、その時に足を挫いたらしくてね。  見つかった時は、亡くなった太陽を抱きしめて歌ってたわ」 「歌?」 「そ。シューベルトの『アヴェ・マリア』。本人曰く、『あんな人通りのない階段で、暖を取らなきゃこっちも凍死するし、音が通る曲の方が、見つけてもらうのに都合がよかった』そうよ」 「・・・」 「どう考えても葬送曲よね。太陽は神サマ信じてる系の人だったらしいし」
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