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最悪だ… この世の終わりだ…
そう思って薬を飲んだのに、気が付くと目に飛び込んできたのは白い天井だった。
辺りを見渡すと、白い壁と自分に繋がれた点滴。それから自分の見知った人物と、真っ白なナース服に身を包んだ女性がいた。
「…ここは?」
かすれた声でそれだけ口にする。次いで聞こえてきたのは溜め息だ。
「病院。自分が何をしたか、覚えてないの?」
その言葉に、ハッとする。脳裏に蘇ったのは、「彼女」の身代わりに生き延びたという記憶だった。
「言っておくけど、倒れてるアンタを見つけて応急処置をしたのは空(ソラ)だから」
その記憶を覆い隠すように、呆れ顔の女性―日生(ひなせ)の言葉が響く。
「…よく、対応できましたね」
半分上の空で無感情に呟くと、彼女は眉を顰めた。
「いきなり職場に電話がかかってきてね。『海(カイ)が倒れてる』なんて言われた時にはどうしようかと思ったわ。それから、電話で指示したのは私だから、当然と言えば当然の結果じゃない?」
「余計なことを…」
苦々しげにそう呟く。自分は死にたかったのだ。
本音を告げると、目尻に温かいものがたまる。が、日生はそれを鼻で笑った。
「アンタの意見は聞いてないわ。それよりどうするの?あの件以来、空は家から出れなくなったわよ」
「…」
「ついでに言えば、水月(ミツキ)は自分の命と引き換えにしてもアンタを守りたかったのに、そういう想いは簡単に踏みにじるのね」
自分はこの現実と重圧から逃げたかっただけだ。
一番残酷なのは、水月を殺した男でも日生でもない。他でもない自分だ。
「…っ、分かって、ます」
噛みしめるように言うと、日生は自分から目を逸らす。
「まぁ、そういう状況を作ったのは私だから、仕方ないけどね」
「どういうこと、ですか」
「ロブが水月を刺したのは、私のせいだよ。ロブを逃がしたのは私だから」
「!」
その言葉を聞いた瞬間、体中の血液が沸騰したのが分かる。
気が付くと、彼女の頬は腫れ、点滴は倒れ、自分は看護師に取り押さえられていた。
「出て行ってください」
「…」
「顔も見たくない!」
血を吐くような思いで叫んだのが、彼女にぶつけた最後の言葉だった。
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