屋上の君

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「・・・」  どうやら、自分は結構有名になっているらしい。  メンドクサイ  溜め息を吐いて、彼女に目を向ける。 「そうですか」  それだけ言うと、彼女の横をすり抜け、フェンスの向こうに広がる景色を見た。 「え、シカト?」  シカト・・・。無視=Disregard か  戸惑う彼女の反応を横目で認識し、ぼんやりと思う。 「貴女は、この病院のスタッフですか?」  仕方なしに憮然とした態度でそれだけ問うと、彼女は気を悪くした様子もなく笑った。 「そんなものかな。一応、院長秘書をやってます。  槙(まき)涼花(すずか)。よろしくね」  彼女はそう言ってこちらに右手を差し出すが、なれ合うつもりは毛頭なかった。 「よろしくお願いします…」  そう言って頭を下げると、踵を返し、病棟へと続く扉の方へと歩を進める。 「あ、ちょっと」  慌てて彼女が追いかけてきた。 「・・・」  ドアノブに手をかけた瞬間、彼女に追いつかれる。 「まだ、院長室には行かない方がいいよ」 「は?」  彼女にはそう言われたが、腕時計を見ると、すでに時刻は九時十五分前だ。  バカバカしい  その思いと共に歩を進める。 「約束の時間に遅れるので、失礼します」  それだけ言うと、扉を開けて屋上を出る。  扉が閉まる瞬間、困ったように笑っている彼女の顔が目に入った。   
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