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最前列の席
「うわ。最悪」
「どうした?」
「座席。教壇前だって」
俺のクラスの三人は席替え好きで、月に一度、クジで座席をシャッフルする。
そのクジを引いてくるなり、今隣席の友達がぼやきを上げた。
教壇前…つまりは最前列の座席。後ろの方と違って教師の意識が向くか位置だから、常に気を張ってないといけない場所だ。
ここの席になりたい奴なんていやしないから、最悪という発言には頷ける。でも俺は、そこの席になりたかったりするんだよな。
「替ってやるよ」
「え。マジ?」
驚く相手の持つクジと自分のクジを交換する。窓際の後ろの方とかいう、学生的に上席じゃないけれど、半分よりは後ろたがら、それなりいい席だろうと思う。というか、最前列よりはどこでもマシだろう。
「お前…今度、何か奢るよ」
「ああ。期待してる」
告げられる感謝の言葉。それくらい、最前列を外られるのはありがたいことだ。でも俺はさっきの場所より一番前の席がいい。
「よーし、それじゃ移動しろ」
担任の号令に合わせてクラス中が動く。
取り替えたクジ通り、俺は教壇前二席の窓際に着いた。その隣に眼鏡の女子が着席する。
物凄い近視で、瓶底眼鏡をかけてい地味な女子。他の席だと黒板が見えないから、どの席が当たっても、必ず最前列の相手と交換してもらって一番前にやって来る。
俺はさっきの友達と交換したから、必然、他の誰かと交換してきたこの女子が隣の席だ。
はっきり言って見た目は地味。クラスメイトだから普通に会話はするけれど、大いにはしゃいで盛り上がるタイプでもない。
でも、少し前からこの子が妙に気になって、何とか近づくきっかけがないかと探っていた。その時に、近視が酷くて、席替えは必ず一番前に来るようにしていることを聞きつけた。
だから俺も、あえて隣の席を狙った。
これで少なくとも、一ヶ月間は隣同士。このチャンスをものにして何とか仲良くなりたい。だからまず手始めに、この一言を。
「隣同士だね。とりあえず一月、ヨロシク」
最前列の席…完
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