見舞い客

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 松葉杖の不安定な状態で廊下に立ち尽くし、男を見る。  病室に入って行った。そのまま俺のスペースの方に向かう。  俺の所に来た見舞い客なのか? でも、多分知らない相手だ。  もしかしたら部屋なりスペースなりを間違えているのかもしれない。だったら教えてやるべきだろう。  でも、俺はどうしても病室に入ることかできなかった。いや、入ってはいけないという気持ちが足をその場に釘づけた。  今病室に戻ってはいけない。ただその考えだけが意識の中で繰り返される。  ここを去ろう。一旦休憩室かどこかに行って、病室には時間を置いてから戻ろう。そう考え、俺はその場をこっそりと離れた。  …その夜。入院した時から相部屋だった、対角線の位置のスペースにいた患者さんが亡くなった。  四人部屋にいた俺以外の三人は、誰もがそれなりの高齢だったから、容体が急変することはありえる話だったけれど、今までの例と照らし合わせると、どうしても一つの想像が頭から離れない。  俺のスペースに来たあの男は、俺が不在だったから、残る一人のスペースに向かったのではないだろうか。あの男が見舞いに来たから、あのスペースの患者さんも戻らぬ人になってしまったのではないだろうか。  もしあの時、俺が病室にいたら。あるいは何を不審にも思わず病室に戻っていたら、もしかしたら昨夜、帰らぬ人になっていたのは俺だったのかもしれない。  総てはあくまで想像に過ぎないけれど、この考えは、日参で通院するからと、頼み込んで退院を前倒しにしてもらった今でも俺の意識から消えることはないままだ。  あの男は何だったのか。今も、どこかの病室に見舞いに現れているのだろうか。  通院し、病棟を見るたびに、薄ら寒さと共にその考えが意識に湧く。 見舞い客…完
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