見舞い客

1/2
前へ
/2ページ
次へ

見舞い客

 足の骨を負って入院した。  病院の都合で部屋は四人制の大部屋だ。とはいえ、俺以外の患者さんはお年寄りばかりで、日がな寝ているばかりだし、訪ねて来る人も滅多にいないから、仕切りさえあれば気にはならない。むしろ、こっちの見舞客とかが来てくれた時に、騒がしくないかと思うくらいだ。  だけど、見舞いに来てくれる面々も、大部屋ということで弁えてくれていたし、そこまで頻繁に誰かが来るということもなかったから、特に文句を言われることもなく、俺は親かな入院生活を送っていた。  そんなある日。  うたた寝から覚めると、隣のスペースに誰か来ているのが判った。  向うは窓際なため、日差しの加減によっては影が仕切りに映り込むのだ。  どうやら隣に見舞客が来ているようだ。  珍しいなと、その時はただそう思ったけれど、その日の真夜中、お隣さんは容体が急変し、それきり隣のスペースには戻って来なかった。  昨日の見舞客は、もしかしたら虫の知らせとかで隣の患者さんを訪ねてきたのかもしれない。そう思ってしまうくらい、負担は誰も来ないのに、その見舞いは絶妙のタイミングだったのだ。  だけど、ここは病院だし、隣の患者さんは結構高齢だったから、そういうこともあるのだろうとただそう思った。  それから暫く経ったある日。  松葉杖での移動が可能になり、体を動かすついでにジュースを勝手戻ると、俺とは反対側の、廊下側のスペースに人がいる気配がした。  ここも普段は見舞い客など来ないのに、珍しいなと思った。…その夜、そこの患者さんの容態が急変し、やはり二度とそこのスペースには戻って来なかった。  見舞い客が来た日に限って、見舞われた側の患者の容体が急変する。一度ならば気にも留めないが、二度同じことが続くとさすがに気になる。  そんなことを考えるようになったある日、またリハビリがてらに売店に行き、戻りかけた病室の側で、俺は一人の男を見かけた。  男だということは判る。でも、それ以上の情報がきちんと頭に入ってこない。  背格好はどのくらいとか、髪の長さとか、歳はいくつくらいなのかとか、男の姿は見えるのに、そういうことが判らない。そして、何故か声をかけることさえできない。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加