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横に設置されたパネルを雑に叩くとすぐに出口は開いた。いや、開けられた。出口の向こう側に誰かいたのだ。
それはまた白衣の人間だった。彼は僕を一目見たあと僕の後ろの遺体に気づき、途端に顔を歪ませた。
「センセー、死んじゃった」僕は白衣の男の裾を掴んで言う。「空を見たい。空を見たいんです」
彼は両手で顔を覆って動かない。不思議に思った僕は何度も同じ言葉を繰り返した。
すると彼は不意に覆っていた手を下ろして、センセーと同じように僕の頭を撫でた。でも、この人の瞳に映っているのは青色なんかじゃなかった。もっと、もっと深い何かが。
「ああ、最悪だ…この世の終わりだ…でも、もう一時停止は出来やしない。君は君のしたいようにしなさい。どうせどの道この世界は…」
「世界は?」
「君だけのものになるから」
そう言い残した深い深い闇を宿した真夜中の瞳は、やがてそこに完全に光を失い、代わりに身体中に赤い空を映しだして息を止めた。
つまりこれは、僕の命の代償が世界だった。ただそれだけの話。
バイバイ、32秒間の愛しい世界よ。
END
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