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佐伯が帰り、ようやく家の中に静寂が訪れた頃・・・
オレは、いつものように仏間へ入った。
「ただいま・・・冴子。」
・・・プシュッ。
遺影の彼女に声を掛けながら、おもむろにビールのプルトップを開ける。
いつからだろう? 寝る前に、ココで冴子に今日の出来事を報告しながらビールを飲むのが日課になったのは・・・
仏壇には、位牌が3つ。
親父とおふくろと・・・一番新しいのが、冴子。
目の前には、ニッコリと笑う冴子の遺影が掛かっている。
オレは、ビールをひとくち口に入れながら、何から話そうか考えあぐねていた。
理沙と会った日は、決まって後ろめたい気分になってしまう。
たとえ、最後の瞬間に頭の中に浮かんでいるのが冴子・・・キミだったとしても・・・
「冴子・・・今日はね、何だか散々な一日だったんだ。」
仏壇に右足を向けながら、黒ずんだ患部をそっと撫でる。
「やっぱり、新しい家政婦が来るのを忘れて寄り道したのがいけなかったのかな?」
『ウフフ・・・そうね。浮気者には制裁してあげないと・・・』
遺影の中でニッコリと笑う冴子が、そう言っているような気がした。
「・・・ごめん。」
オレは遺影に向かって首を垂れると、また行き場のない気持ちを紛らわせながらビールに口をつけた。
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