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「ただいま。」
ドアを開けると、玄関先に女性物のパンプスが一足、こちらを向くように揃えてあった。
普段は見る事のないその風景に一瞬戸惑ったものの、すぐに「家政婦が来てるんだから当たり前か・・・」と思い直す。
オレの声など聞こえなかったのか、リビングの方から賑やかな話し声が聞こえて来る。
オレは、パンプスから少し離れた隣りに靴を脱ぎスリッパに履き替えると、荷物を片手にリビングへ向かった。
「・・・父ーーーッ!!!」
リビングへ入って荷物を置くと、オレに気づいた昂が勢いよく飛びついて来た。
「ただいま、昂。」
・・・ん?
オレは、抱え上げた昂の頭に頬擦りすると、片隅で這いつくばっている物体に視線を向けた。
・・・いったい、何やってんだ?
おそらく、何か零してしまったのだろう。
そこには、四つん這いになりながら一生懸命床を拭いている彼女の姿があった。
『どうすれば、あれだけのドジが踏めるのかなぁ?』
数日前、クスクスと笑いながら話していた昂の顔を思い出す。
フフッ・・・どうやら、昂が言った事は間違っていなかったみたいだ。
それでも、彼女はオレの下で働いてくれている家政婦に変わりはないし、そもそも、それを依頼しているのはオレの方だ。
むしろ、今まで挨拶の一つも満足に出来なかった失礼を、彼女に詫びなければいけない。
そう思い、彼女の背中に向かって声を掛けようと口を開きかけた。
と、その時・・・
向こうもオレの存在に気づいたのか、ゆっくりと腰を上げてこちらを振り返る。
その顔を見た瞬間・・・オレの心臓に激震が走った。
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