第3章

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建築設計とひと口で言っても、その業務は非常に多岐にわたる。 大きく分けると、外観や内部空間のデザインをする「意匠設計」、耐震等の安全を考慮する「構造設計」、そして電気設備や空調・給排水等の配管設備を設計する「設備設計」の3種類になるが、こうしたさまざまな工程を経なくては、どんな小さな建物の図面であっても完成しないのだ。 ちなみに、今ウチの会社には、佐伯を含めて8人の営業担当がいる。 それに比べて、実質動いている建築士は、オレと美月と・・・あともう1人いる二級建築士の3人。 つまり、請け負った全ての現場の「意匠」「構造」「設備」をたった3人の建築士で切り盛りしている・・・というわけだ。 ココに、もう一人・・・一級建築士の資格を持つ男がいるのにもかかわらず・・・ 「そろそろ、こっちに戻って来いよ。」 「・・・やだ。」 やだ、って・・・ソレ、大人の言うセリフか? ホトホト呆れて頭を抱えていると、匂坂さんがコーヒーを持って部屋に入って来た。 「ねえ、匂坂さん、どう思う? コイツ、ずっと営業だけでいいと思う?」 「だって、仕方ないだろ? オマエが営業苦手なんだから・・・」 フンッ・・・また、その話か。 どうせ、いつもの小競り合いとでも思っているのだろう。 匂坂さんは、クスクスと笑うばかりで何も答えようとしない。 ・・・ふーむ。 こうなったら、仕方ない・・・あまり強引な手法は使いたくないが、アレを出すしかないか・・・ オレは、佐伯から視線を逸らすと、コーヒーを置いて部屋を出て行こうとする匂坂さんの背中に向かって言った。
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