あい

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目を開けた女の視界に写るのは、淀みのない漆黒の闇だった。 「…ここはどこ?」 月明かりさえない真っ暗闇の中、目覚めたばかりの女は上半身を起こし、ぽつりと呟いた。 その時自分の右手に違和感を感じた。 何かを握っている。 女はそれを両手で触り、感覚だけでなんなのか探ろうとした。 「…毛?」 女は呟くと、それを投げ捨てた。 そして女は地面をペタペタと触り始めた。 「がさっ」 女の手に紙のような薄い物が触れた。 女はそれを広い上げ、両手で感触を確かめた後、鼻に近付け匂いを嗅いだ。 女の鼻腔から伝わる匂いが、脳に記憶されている物質と重なった。 「…葉っぱ?」 女は葉っぱを捨てると、赤ん坊のようなはいはいの姿勢になり、地面を触り続けた。 「…外だ…森の中?」 脳が覚醒し始め、女は恐怖に襲われ始める。 「…わたし…浴室で手首切って死のうとしてたはず…なんで?」 女は立ち上がり、肩を抱いた。 「…えっ!?なんで?」 女は自分が裸である事に気付いた。 「…やっぱりわたし、死んだのかな?…いだあぁぁぁぁぁ!」 女は激痛に顔をしかめ、左手首を抑えた。 「…いだぁぁぁい!」 泣き叫ぶ女の右手は、止めどなく溢れる、ぬめっとした液体の感触を捉えた。 「えっ!?いだぁぁぁぁぁぁぁ!いいっ血?」 女は本能的に右手を力強く握り、止血を試みた。 しかし女の右手はにゅるんと滑り抜けた。 「えっ!?」 女は混乱しながらも、ゆっくりと左手の指を動かそうとした。 動かない。 女は歯を食いしばりながら、恐る恐る右手で左手を掴もうとする。 しかし右手が触れたのは、闇に漂う、どんよりとした空気だけだった。 女は何度も左手首の先を触ろうと試みるが、答えは一緒だった 。
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