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ぽつぽつと雨が空から降り始めていた。
頭上に視線を向けると、何重にも重なり空を覆い隠す雲にため息をこぼす。数刻ほど前には青い空が広がっていたはずだったのだが、いつの間にか雲が空を覆い隠し、暗かった気分をよりいっそう重くさせる。
「お待たせしました。唐沢様」
降り始めた雨を眺めていると、急に声をかけられた。声をかけられた方向に視線を向けると、年季の入った作業着を身に着けた初老の男性が営業用であろう笑みを貼り付けこちらに見つめていた。
「これからよろしくお願いします。」
その男性に軽く頭を下げ、こちらですと歩き出す初老の男性に促され、ぽつぽつと降り始めた雨の中、目的としている場所へと移動を開始した。
都市部から離れたその場所は、田舎というには発展しているようにも見受けられた。
「こちらになります」
初老の男性と待ち合わせしていたところから数分ほど歩いたところで男性が立ち止まり、こちらに視線を向けた。彼が指差す方向に視線を向けると、二階建てのアパートが視界に入ってくる。外観上には何の以上も見受けられない。
築十年という割にはあまりに綺麗な外観は提示された家賃とは不釣合いに感じられた。
「ここの二階の一番奥の部屋になります。あ、鍵はこちらになります。」
男性は室内まで案内する気配はないようで、すぐさま立ち去りたいという雰囲気が感じられた。
渡された鍵を受け取り、口頭で説明された部屋へ向かう。
「それでは、私はこれで」
「ありがとうございます。これからよろしくお願いします。」
「はい、よろしくお願いします。……長くいていただければいいんですがね」
後半の言葉の意味がよくわからず、あいまいに頷きなら自分に割り当てられた部屋へと歩を進めた。
『マタキタ』
そんな声が聞こえたような気がした。
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