一章

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 ゆっくりと意識が覚醒していく感覚。いつの間にか閉じられていたまぶたをゆっくりと持ち上げていく。どうやら片付けに疲れきり、眠ってしまっていたようだ。中途半端に閉められたカーテンの隙間から朝の日の光が差し込んでいる。 「晴れたな……」  カーペットの上で寝ていたために体中にちょっとした痛みが走るが、凝り固まった筋肉をほぐしながらゆっくりと体を伸ばしていく。  時間がなく、切りに行く暇がなかったために伸びきってしまった前髪を掻き揚げ、テーブルの上においていたタバコとライターを手に持ちベランダへと続く窓を開ける。 「まぶし」  昨日とは打って変わり雲ひとつない青空が広がり、無駄に輝きを放つ太陽から逃れるように顔の前に手のひらで陰を作り上げた。一本タバコを口にくわえ、ライターで火をつける。  ベランダの手すりに腕を乗せながら煙を口から吐き出す。白い煙が青空の中に溶け込んでいくのを見つめる。そんな光景がどこか好きな光景だった。    吸いきったタバコの吸殻を片付けながらバスルームへと向かう。昔から、おきたらシャワーを浴びに向かう。体に当たるお湯の温かさを感じながら、肌に当たりはじける水温に耳を傾けながら、今日一日の予定を頭の中で考える。シャワーを止め、扉の向こうにおいていたタオルで肌の水分をふき取り、準備していた服を身に着ける。  壁にかけていた時計はいつの間にか9時をさしていた。 「あら?」  荷物を持ち、玄関から出たとき左側からそんな声が聞こえた。 「新しい人?」  声の聞こえた方向に視線を向けると、長い髪をひとつに束ね、スーツに身を包んだ女性が目の前に現れる。その整った顔立ちに一瞬視線を釘付けにされる。首をかしげ、こちらを覗き込んでくる女性に、心臓が飛び跳ねるような、そんなはずはないのだが、何故かそんな不思議な感覚を覚えた。 「あ、はい、昨日からここに引っ越してきた唐沢と言います。挨拶が遅くなってしまって申し訳ありません」 「ご丁寧にどうも。私は有実、よろしくね」  仕事だから、またね。有実と名乗った女性は腕につけていた時計を覗き込み、手を小さく振りながら階段の方向へと向かっていった。  そんな彼女の後姿に何故か目を離せず、その後姿が見えなくなるまで立ち止まっていた。
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