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『飲んでパパーッと憂さ晴らし!』という
菊池からの何度目かの誘いを振り切り、早々に
帰途へとつく。
大学時代から含め、今年で9年住んでいる4階建てマンションは、最寄の地下鉄から徒歩10分という立地条件でありながら家賃は破格なので、
勤め人になっても引っ越しする気は
起きなかった。
プロポーズを機に引っ越しでもと思ったが、
思っただけに終わった。
「ゥニャー」
ドアを開ける前に聞こえてきた鳴き声は、足音で
俺だとわかっているのかな?
そう思うと、にやけてくる。
朝から雨の日。
5月の初旬とは言え、札幌はまだ寒い。
彼女と別れた日。
広い公園のベンチの隅に小さく丸まっていた猫。
ゴミかと思うほどに汚れた猫。
長い毛並みはしとどに濡れ、
声をかけても、
逃げるどころか微動だにしなかった。
立ち上がれないほどに弱っているのだろうか。
なのに、
うすく開かれた目は警戒心丸出しで。
でも、悲しそうにも見えて。
何だか、今の自分のようで、
ほっとけなかった。
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