*** 2 ***

5/8
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
『飲んでパパーッと憂さ晴らし!』という 菊池からの何度目かの誘いを振り切り、早々に 帰途へとつく。 大学時代から含め、今年で9年住んでいる4階建てマンションは、最寄の地下鉄から徒歩10分という立地条件でありながら家賃は破格なので、 勤め人になっても引っ越しする気は 起きなかった。 プロポーズを機に引っ越しでもと思ったが、 思っただけに終わった。 「ゥニャー」 ドアを開ける前に聞こえてきた鳴き声は、足音で 俺だとわかっているのかな? そう思うと、にやけてくる。 朝から雨の日。 5月の初旬とは言え、札幌はまだ寒い。 彼女と別れた日。 広い公園のベンチの隅に小さく丸まっていた猫。 ゴミかと思うほどに汚れた猫。 長い毛並みはしとどに濡れ、 声をかけても、 逃げるどころか微動だにしなかった。 立ち上がれないほどに弱っているのだろうか。 なのに、 うすく開かれた目は警戒心丸出しで。 でも、悲しそうにも見えて。 何だか、今の自分のようで、 ほっとけなかった。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!