紫煙

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「煙草嫌いなんだけど。」 俺がこう言うとこいつはいつも眉を下げてごめんと謝る。 そのくせして吸うのを止める気配はない 布団から顔を出しその後ろ姿を眺めているとふとあの人と重なった いつも終わった後、 大きな広い背中を向けながら小さく煙を吐き出していたあの人。 あの人とのキスは煙草を吸った後だと言うのに何故か甘く、その甘さに釣られて何度もキスをねだりそのまま熱がぶり返して朝までなんていうことも珍しくはなかった 煙草は嫌いだった。 けれど何故かあの人のものだけは大丈夫で当時は自分のシャツに染み込んだその匂いであの人を思い出しその度に頬が緩むのを抑えていた こんな風に懐かしむことになるなんてあの時は考えてもいなかったけれど。 「ねぇ、誰のこと考えてるの?」 突如上にのし掛かられ意識を戻される 「誰でもないよ。」 「ふーん…。」 俺の対応が気にくわなかったのか首もとに軽く噛みつき頭を擦り寄せてくる その反応がまるで猫のようで思わず手を伸ばし髪を鋤く様に撫でた それが気に入ったのか俺の手に擦り付けるように頬を当て見つめられる 「今、一緒にいるのは俺だからね?」 「…うん。」 そんなこと、言われなくたってわかってる。 目の前にいるのがあの人じゃないなんてとっくに理解している それなのにふと思い出すのはあの人のことばかりで自分で自分が嫌になる。 らしくないけど目の前のこいつにも罪悪感を抱いている。 そんな俺を見透かしたかのように目の前の男は微笑みながらキスを落としてくる。それは次第に深くなり俺から熱を奪い取るかのように蠢く それはあの人のとは違い苦く、まるで俺の思い出を塗りつぶすかのようで胸が苦しくなる? 知らぬ間に目尻から流れ落ちていた水滴を拭われ耳元で囁かれた 『早く俺のところに堕ちてきなよ』 ぼやけた視界の先で男が笑ったのを俺は見ない振りをした
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