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無理矢理引きずられながら、背後に抗議の視線を向ける。
葵さんは椅子の上に立ち上がり、天井の熱感知機にタバコを近づけていた。
次の瞬間、室内のスプリンクラーが一斉に作動し、水を吐き出し始めた。
これだけ大量の水ならば、三分で血痕を洗い流してくれるだろう。
事務室を抜けて、玄関まで連れて行かれる。
入口では、スーツ姿の男が警察と揉み合っていた。
怒声の応酬の只中に、オレは押し出された。
「頼むよ!」
頼まれても、オレにはどうすることもできない。
腕っぷしには自信がないのだ。なんとか説得できないものか。
「おまえらふざけてんのか! そこをどけ! 全員ブタ箱送りにするぞ。それとも病院送りがいいか! オラぁ!」
ドスの効いた刑事の声にすくみ上る。両手を前に突き出しながら「冷静に冷静に」と前へ進み出る。
すると、刑事の腕が伸びて来て、胸ぐらをつかまれた。強引にグイと顔を近づけられる。
「てめぇが、何でここにいる!」
眼光鋭い強面。正義感の塊のような面構え。ああ、この人は。
組織犯罪対策第一課、警部補、高柳俊介。
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