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「こうしていると、みんなでバーベキューに来たみたいで、楽しいね。ビールでも飲めたら最高なんだろうなぁ」
呑気に明け方の空を見上げたオッサンに向けて、性悪女の要求は容赦がなかった。
「あたし、ホットコーヒー。自販機は、音楽堂の横」
まるで催眠術でもかかっているかのように、オッサンはすぐさま音楽堂へと走り出した。愛の力は偉大だ。
葵さんは繰り返し動画を見ている。
「これって、野良のしわざかな」
オレが尋ねると、彼女は首を傾げた。
「どうかな。こんな巨大な野良なら、人目に付くと思うけど。そんな情報も入ってないし。それに先生を襲うなんて、意図があるようにしか思えないわ。ブリーダーがいるような気がする」
とんでもない怪物を飼い慣らすブリーダーが存在する。
そこでオレは思い出した。
葵さんと合流する直前に、信号待ちで向かい合ったメルセデス・ベンツ・トランスポーター。シンタロウが怯えるほどのラバナスがいたってことを。
「それかもしれないわね。車のナンバーは? 男の人相は?」
そこまでは覚えていない。どす黒い闇色の瞳以外には、これといって特徴のない男だったし。
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