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「一回戦の相手は、関西一区代表のショワンウー号だ。このブリーダーは全国大会の常連でね。四年前には準優勝まで行ったんだ・・・ねぇ、聞いてる?」
聞いていない。闘うのはオレじゃなくて、シンタロウだ。作戦会議なら、ヤツとやってくれ。酔っ払って、いい気分のまま眠りにつきたいんだ。
雲のベッドで、ゆっくりと目を閉じる。だけど、眠れなかった。
梅田さんはそれからも一方的にしゃべっていたけれど、無反応なオレに呆れて、そのうち寝てしまった。
三男坊も、ケンネルの中で丸まって寝息をたてている。
オッサンのいびきを聞いているうちに、どんどん目が冴えて、酔いがどこかへ消えてなくなった。
窓の外の暗闇をぼんやりと眺めて、ため息をつく。オレは、なんでこんなところにいるんだろうって。
バンドをやってた頃は、全国をツアーで回って、高級ホテルで朝まで打ち上げをするなんて夢見ていたけれど。
今、こうして夢の一部が現実になっているわけで。でも、その夢を叶えてくれたのは、音楽じゃなくて化け物で。
半年前まで、その存在すら知らなかった異形の生き物が、オレをこんなところまで連れてきたんだと思うと、喜ぶべきか悲しむべきかわらない。
なんでこんなところにいるんだろうって、その理由を懸命に考えるけれど、出てくるのは言葉じゃなくて、やっぱりため息だけ。
不安と興奮が入り混じって、脳みそが思考を拒否しているみたいだ。ナーバスになっているからかな。
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