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プールサイドだけじゃない。隣接するテラスラウンジでは、満席の客が料理を目の前にしてラバナスの登場に舌なめずりをしている。
さらには、中庭を一望するように建つホテルの客室では、それぞれのベランダから宿泊客たちがプールへと熱い視線を送っていた。
地上十階建て、客室数三百九十四、このホスピタリア・グランデ東京に集うすべての人たちが、寒中水泳競技会の観客だったのだ。
オレたちの姿を目にとめ、一斉に拍手と歓声が沸き上がる。千を超える声援が地鳴りのように響いた。
オッサンは誇らしげに、手をあげてみせる。
蝶ネクタイでジャケット姿、レッドカーペットを歩く映画俳優気取りだ。
観客たちは、応援するラバナスのプラカードや垂れ幕を掲げていた。
その中で、客室西館の三階あたりに、ジュビリー二号の横断幕を見つけた。『檻に入りきらない凶暴性』確かにダサいキャッチフレーズだ。
地方大会では大きく見えたそれも、このホテルの規模から比べたら、なんと小さいことか。
それぞれが、ごひいきの化け物登場を今や遅しと待っている。ワインを片手に、ビザをかじりながら、化け物同士の食い合いを。
あそこのカップルなんて肩を抱き合いながら、こっちを指差して笑ってる。まるでデート気分かよ、クソっ! 本当に、悪趣味な連中だ! しかも、こんな高級ホテルで!
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