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オッサンが観客の中に誰かを見つけたようで、ラウンジの方へ向けて大きく手を振っている。
その視線を追うと、何の感情も持たない冷徹な眼差しの葵さんがいた。すぐ横には段ボールが置いてある。クマ公と一緒に警備中ってわけだ。
「ヘイ、ボウィ! 一年に一度、ブリーダーの晴れ舞台に、ずいぶんと素敵な出で立ちじゃないかー」
こいつもいたのか。デンキイヌのブリーダー西之沢。グレーの三つ揃いスーツでビシッと決めてやがる。
ひと月ぶりの再会に、ずいぶんな挨拶じゃないか。オレだって、こういう場所だって知ってたら、寝ぐせ頭にパーカー姿でなんて来やしない!
「ああ、オレのポリシーなんだ」
「それは、素晴らしい。オウッ、後ろにはジュビリー二もいるじゃないかー。何度見ても、気持ち悪いね。アグリーフェイス!」
オッサンが「名前が違う」と怒っているが、相手にしているときりがない。
運営の係員が「プールの方へ来てください」とさかんに合図している。もう、試合を始めるっていうのか。
「悪いが急ぐんだ。じゃあな。次対戦するまでに、あのイヌをフル充電しといてくれよ」
軽く手でいなして、横を通り過ぎる。天パ野郎が大声をあげて笑った。
「そっちこそ、その右腕みたいに、一回戦で消えたりしないでくれよー。アグリーモンキー!」
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