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扇型プールの西側には、すでに対戦相手の準備が整っていた。
ボディビルダーらしき屈強な男二人が、ケージを取り囲んでいる。半袖のワイシャツが、今にもはち切れそうだ。
ケージは、一・五メートル四方のジュラルミンケースみたいな、頑丈な箱。オッサンが耳元で囁く。
「あれが神戸屈指のブリーダー、津川兄弟。双子なんだ。右がお兄さんで、左が弟。いや、もしかすると、右が弟かも・・・」
そんなことはどうだっていい。オレたちも、なだらかなスロープを通って水槽へ降りた。東側に陣取る。
「相手は、ショワンウー号。予選を無傷で勝ち上がった強豪だ。鉄壁のガードは、ジュビリー二号でも簡単には破れない。絶対に負けないラバナスと評判だ。何か突破口があればいいんだけど」
「絶対に負けない? どういうことだ? そんなの聞いてない」
「昨日の夜、作戦会議したじゃないか!」
そうだったのか。もう少し、真剣に話を聞いておけば良かった。
レフリーが「準備よろしいですか?」と聞いてくる。
「まだ、寝ぐせなおしてないんだけど・・・」
レフリーは戸惑いながらも、それを準備オッケーと解釈したようだ。真っ白な旗を天に掲げた。
なんだか、旗も厚手の布で、高級品に見える。全国大会はここまで違うんだな、なんて関心してる間に、旗が振り下ろされた。
「アンリーシュ!」
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