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東西、二本の旗が同時に風を切る。これが、試合開始のゴング代わりだ。
場内アナウンスも、実況中継もない。余計な煽りも、BGMもない。
ただ淡々と、純粋に、化け物同士の、命の削り合いだけを楽しむ。このコンセプトは、全国大会でも変わらないようだ。
「シンタロウ、アンリーシュ! 食っていいぞ!」
パーカーのフードに手を伸ばしヤツをつかむと、まだ眠たそうな顔をしている。
バカヤロウ、いい加減に目を覚ませ。オレはおもいっきりプール中央へ投げてやった。
ゴロゴロと床を転がって、うつ伏せの状態で止まる。面倒臭そうに尻をかきながら、サルはおずおずと立ち上がった。
シンタロウの全国デビューを、観客たちは失笑で出迎える。
西側の双子兄弟は、無駄に上腕二頭筋をアピールしながら、二人がかりでケージの扉を開けた。
ジュラルミンケースの中に見えたのは、灰色の岩。
「何だ。ありゃ?」
灰色の岩が、ゆっくりとケージから出てくる。岩の横には、左右二本ずつの短いウロコ模様の脚が見える。それが、のそのそと岩を動かしていた。
「あれは、カメか?」
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