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オッサンはしきりにうなずいているが、きっと話なんか聞いちゃいない。
ガラスの向こうなんて一切見ずに、葵さんの顔を覗きこんでうっとりしている。
「同定されたウイルスは、結晶化され、あの中で保管されているの」
研究室の奥には、さらにガラスで仕切られた区画があった。
中には貸金庫みたいに、小さなボックスが縦横ずらりと並ぶ棚が設置されている。
研究員のひとりが、区画に入ろうとしていた。
壁面の操作盤をタッチし、暗証番号を入力。
ここは厳重なセキュリティーの中にあって、さらに厳重に管理されているらしい。
「はい。これで説明は終わり。早く外に出るわよ。タバコが吸いたくてしょうがない」
あれだけ手間をかけて入室したのに、説明はもう終わり?
「ちょっと待ってくれよ。ここがすごい研究室だってことはなんとなくわかった。でもオレが知りたいのは、あんたたちザック&バーチがなんでラバナスの運営なんかやってるかってことだ。そもそも、ここにはラバナスなんていやしないじゃないか」
葵さんは当然のことのように返答した。
「いるじゃない、ここに。こんなにたくさん」
指差したのは、貸金庫。最重要警戒区画の、あんな小さな箱の中にラバナスが? どういうことだ?
〈 つづく 〉
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