第15話 騒霊

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クマは従順に向きを変え、浴槽の中に警棒と手を突っ込んで、糸の網を引き千切った。 やっと両手が自由になったサルモドキは、まとわりつく糸を払いながら起き上がる。 ぬいぐるみクマは、巨大グモと対峙していた。 腰を落とし、警棒を寝かせて両手で持ち、めいっぱい背後に引く。 それは後で調べてわかったのだが、剣道で言うところの霞の構えらしい。 七本脚で突進してきたネズミの頭めがけて、警棒をとてつもない勢いで突き出す。 棒先のスピードは、オレの目では捉えられなかった。 今度はうめき声を発する暇もない。 ネズミグモは顔面に警棒をめり込ませ、床に這いつくばった。 すかさず、クマの背後からジャンプしてきたサルモドキが、その上に飛び乗る。 腹を噛み千切り、脚を引き千切り、怒りの形相でクモを解体し始めた。 糸で縛り上げられたのが、よっぽど悔しかったのだろう。 食べもせずに、粉々の肉塊にしてしまった。 そんな怒りのサルを背にして、ぬいぐるみクマは、スルスルと警棒を縮める。
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