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「ブリーダーがいるってことか?」
「たぶんね。でも、親元を離れて、部屋の天井裏なんかに棲みついているところをみると、もうブリーダーは死んじゃってるのかも。まあ、インプリンティングの性質が、もともと弱いラバナスもいるけどね」
オレは、手を止めて彼女をにらむ。
「あんた、何者だ? 県立保健センター害虫駆除係なんて、存在しないんだろ。どうせ、葵薫って名前も偽名に決まってる」
「あら、失礼ね。葵薫は、本名よ」
そう言って彼女は笑みを浮かべた。
あらかた肉塊を拾い終わると、葵さんはジップロックを納めたクーラーボックを車へと置きに行ってしまった。
「あなたは、掃除をしてて」と言い残して。
ネズミグモの血痕は、床だけでなく、壁にも天井にも飛び散っていた。
シャワーでは流れきれなくて、ブラシで擦り落とす必要があった。
懸命に手を動かしていると、いつの間にか葵さんが戻ってきていた。
バスルームの入口で、しゃがんで缶コーヒーを飲んでいる。
オレの立ち位置からだと、ちょうどワイシャツの襟元を斜め上から見下ろす形になる。
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