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「床に足跡つけないでよ。掃除が面倒だから」
なんて女だ。あんたなんか、全然掃除してないじゃないか。
バスルームを一歩出ると、部屋は寒々としていた。
濡れたジーンズが肌に張り付いて、冷たい。
バスマットの上に座って、足の裏までタオルで拭く。
すると、葵さんがオレの頭の上に何かを乗せた。
「はい、ごくろうさま」
髪の毛越しに伝わる、じんわりとした温かみ。
手に取って見ると、缶コーヒーだった。
「あなたも知ってのとおり、親元から離れて行き場をなくしたラバナスが、街にはけっこういてね。あたしたちはそれを、はぐれラバナスとか野良ラバナスとか呼んでる。こいつらが、けっこうな悪さをするんだな」
オレは遠慮なしに缶コーヒーを飲んだ。
葵さんは、一本くらいと言っておきながら、二本目のタバコに火をつけた。
「昨日の新聞見た? 山形市で、中年男性の頭部だけの遺体が発見されたって。あれも、どうやら野良のしわざらしい。あれ、知らない? あなたは新聞なんか読まないか」
冗談じゃない。新聞は読んでる・・・地方面ばかりだけど。
「野良はいろいろ事件を起こしていてね。去年も、福岡市の貴子ちゃん行方不明事件とか、白浜のバラバラ殺人事件とかね。さかのぼれば、二十年前の吉祥寺の一家惨殺事件も彼らが犯人」
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