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人気のない教室に響く、本当なら嬉しいはずのその声が、まるで死刑宣告のように感じられる。
「コウタくん、…何?この惨状……」
「…サキ」
少年に近付きながら、サキと呼ばれた少女は周りを見回した。
肩までの髪をふわふわさせながら首を傾げている。
「…ごめん」
「え?」
「ごめん!」
「え、何?何が、」
「無くした!!」
少年──コウタは、素直に謝る事にした。
「サキの、…指輪っ!」
それは春休みの事だった。
コウタとサキが少し遠くにある遊園地に行った帰り道。
桜の下でコウタが思い切って渡した指輪をサキは笑顔で返したのだ。
「あ…え?えと、あ、こういうの、ダメ…だった?」
「ううん」
違うの。
嬉しいの。
でも、
「私、来年卒業しちゃうでしょ」
「…うん」
「勉強とか、受験とか、もっと忙しくなる。…春休みもホントは忙しい」
「…はい」
「きっとイライラする。イライラして嫌な人になる。あんまり会えなくなって、ケンカして、さよならする」
「……サキ!」
「ね。だから持っててよ、それ」
「なんで、だってオレ、サキが」
サキは返した指輪ごとコウタの手を包んだ。
思わず息を呑むコウタのその手にキスをする。
「持ってて。コウタの気持ち。一年後の今日、コウタの気持ちが変わらなかったら、」
わたしにちょうだい。
「…そっか。無くしちゃったんだ…」
「ごめん!…なさい」
確かに、確かに持っていたのに。
いつの間にかチェーンが切れてて、コウタの気持ちは行方知れずだ。
絶望顔のコウタにサキは呟いた。
「じゃーその足元の、なーに?」
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