終末の日に

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おお、神よ。 私は祈らずにはいられません。 この生き地獄を救い給えと。 ああ、神よ。 私は嘆かずにはいられません。 この祈るしかない無力さを。 足元に在る遺体の手が微かに動きました。 ああ、この人もまだ息が有るのですね。しかし神に仕える身ながら、無力な私には声を掛ける以外の力は有りません。 聖職者で有るこの身は、人々の寄付に因って食べて行けるのです。 それはとても有り難い事です。 代わりに私は神の起こした奇跡を、その正しき教えを人々に説きます。 ですが病魔が蔓延し、死者に溢れたこの世界では寄付はほぼ集まりません。 皆さん明日をも知れぬ病魔に侵された身では、己の命を食い繋ぐだけで精一杯なのですから。 無力な私は、嘆き、ただ祈るより他に成す術が有りません。 神よ、この苦境を救い給えと。 大いなる奇跡を起こし給えと。 祈りを呟きながら私は、足元に横たわる息も絶え絶えな婦人の口へ耳を近づけました。
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