終末の日に

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先程から、何かを必死に訴え様としているのです。 僅かに動く手は、何かを握り締めております。 「こ、れを……私の……」 そこから先は聞こえません。 とうとう力尽きてしまった様子です。 私はたった今息を引き取った婦人の傍らに膝を着き、そのしっかりと握られた手を開きました。 おお、素晴らしい。 神の如き輝かしさ。 金貨です。金貨をこの婦人は、死の間際に私へと寄付して下さったのです。 ああ思えば、この悲惨な世界のただ中に有っても、私は人々の信仰心に支えられて生きて来られたのです。 二日前にはパンを、昨日は熟した林檎を、死の間際の信心深い人々から譲って頂きました。 そうしてこの身は生き永らえ、神の教えを説く事が出来ているのです。 私はこの貴重な寄付に因って得られた金貨で、しばらくは生きて行けます。 神よ、有り難う。 貴方の慈悲は、貴方を敬うこの身に注がれているのですね。
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