終末の日に

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「なあ、アンタ」 婦人の元から立ち去る私に、随分と粗雑な口調の声が掛かりました。 恐らく、この悲惨な世界で盗人に身をやつした、さもしい神を信じぬ輩でしょう。 今し方、私が手に入れた金貨を欲しがっているのです。 私は毅然とその者に振り返りました。 信心深い婦人から頂いたこの金貨を、不逞の輩に渡す訳には行きません。 するとそこには、ああ、この世の終わりがとうとう近付いたのでしょうか? 聖書の記述そのままの悪魔が居りました。 大きな耳元まで裂けた口を厭らしく開き、ギザギザに尖った黄ばむ歯を剥き出してせせら笑います。 「なあ、アンタ」 同じ言葉を悪魔は繰り返します。 「立ち去れ、悪魔よっ」 勇気を持って私は叫びました。 恐怖に声は震えましたが大丈夫です。 こんな存在が、神に護られたこの身に触れられる筈が有りません。
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