終末の日に

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「この奥さんさあ、その金貨を家で待つ子供達に渡してくれって呟いて居たぜ。アンタはそれを無視するのかい?」 こちらの言葉を聞かずに、悪魔は戯れ言を告げて来ます。 厭らしい笑いを、その顔に張り付かせたまま。 「黙れ、悪魔よっ」 もう一度、私も叫びました。 悪魔の痴れ事に、惑わしの言葉に耳を傾けては駄目なのです。 これは寄付された物で有り、私の金貨です。 「神に仕えるこの身を貶め様と言うのかっ」 叫んだ私の前に、ふわりと蝙蝠の羽を一度だけはためかした悪魔が降り立ちます。 大丈夫。この身は神に愛され護られているのですから。だから今日まで、信心深い人々の慈悲に支えられ生きて来たのですから。 「その必要は無いね。アンタに天国の門は開かれない。そしてその腐りきった性根の為に、地獄の門も開かれないがね」 「私の身は、神に仕える清浄な身。腐りきった性根等と世迷い言を言うか、悪魔よっ」 「言うね、自らをたぶらかす愚かな人間」 生臭い硫黄の臭いのする息を吹き掛け、悪魔はただ一度だけ軽く私の身に触れました。
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