第2話

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 伝統的な日本家屋の門前に掲げられている看板には大江戸守護部隊とあった。太く力強い書体で書かれた毛筆は、彼らの自らを律する武士の精神を表している。  彼らの仕事は、怪異を退治すること。そして、街の治安を守る事の2点だけ。春陽(しゅんよう)と樹希(たつき)が所属している部隊は、強い未練を残して死んだ人が引き起こす『怪異』と呼ばれる現象を鎮圧する部隊だった。この部隊は、街の保安とは別の意味で命を落とす危険が非常に高かった。 ――毒を以て毒を制す。  言葉通りの意味だ。未練が強すぎて、怪異――化け物となった人たちを狩る。狩りをするとき、隊員はそれぞれ縁の強い物を媒体にして怪異と接触し、相手の全てを喰らい、消化し、この世から消滅させる。ある者は、恩人の日本刀で。ある者は形見の簪で。  怪異を喰らうのは、猛毒をその身に取り込むのと一緒だった。取り込んだ者の中に蓄積され、中には生きながらにして怪異となり、かつての仲間に喰われることもあった。 「で。もう一度、最後の部分だけ聞かせてもらおうか」  局長の目が、獲物を狙う鷹のように鋭く光った。利き手で弄もてあそんでいるジッポの蓋が、何度か開け閉めを繰り返す。そのたびに澄んだ音が室内に響いた。これは、二人の上司が何かを思案している時だけ起こる癖だ。それも、機嫌が悪い時に。  開閉音が鳴るたびに、二人は心臓が握りつぶされるような感覚がしていた。何故か――それは、やっとの思いで帰ってきた二人から、春陽(しゅんよう)が怪異に憑りつかれるまでの経緯を聞かされたからだろう。 「黙ってないで何とか言え」  樹希(たつき)が隣でびくっと大きく体を震わせて、口を開いた。 「お、れが……鼓を渡したら春陽(しゅんよう)が憑りつかれました」  何かを思案するように、局長が天井を仰ぎ見た。彼はそのまま大きく息を吸い込むと、私たちに向かってがははと笑った。ミイラ取りがミイラになって帰って来たのでてっきり怒られると思ったので驚いた。
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