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次に思い出すのは、あの桜の古木。枯れ木に桜の花を満開にしていた。その時、花びらが私に纏いついてきたのを思い出す。あれが、同調のきっかけだとしたら? でも、あれは怪異の残滓みたいなもののはずだ……。
「何か思いついたみたいだな」
「この鼓と関係があるかは不明ですが……隅田川の桜。あの花びらが私に纏いついてきた。怪異が何らかの抵抗をしていました」
怪異は必ず人に害をなす。残り香のようなものでも、きっと反撃したかったのだろう。怪異に人間らしさは微塵も残されていなかった。今までも、これからもきっとそうだ。
「本当にそう思うか?」
「何か言いたいことでもあるんですか?」
「いや、別に。時に人の想いってやつは想像を超えることをしでかす」
そう言うと局長はくっと楽しそうに喉を鳴らすと、最後の質問を繰り出した。
「これは2人に聞く。その鼓はどうするつもりだ?」
「あ……俺は、可能なら昇華したいです」
「何言ってるの。こいつは怪異以外の何者でもない。速攻で消化に一票」
「じゃあ、俺は樹希(たつき)側につくとしようか。多数決でその怪異の未練を断つ、で決定だな」
彼の右腕があった場所を思わず睨みつける。彼の動作に合わせて、ゆらゆらと空の袖が揺れていた。恩人の――自らの師が腕を失った時のことを思い出すと腸が煮えくり返る。怪異を殺したい。自分自身を殺したい。無力なのは罪悪でしかない。あの時、自分にもっと力があったら、まだそこに腕があったかもしれないのに。
「怪異はすべてこの世から消滅させるべきです。あなたの腕を奪ったやつらに未来なんて――次の世で生きる資格なんてない」
「過ぎたことをいつまでもズルズルズルズル引きずってるのは、男らしくないぞ。鼻水が全部できらないと気持ち悪いだろ」
「私は女です。鼻水はちゃんと出なくなるまで、かむのが信条なので気持ち悪いことなんてありません。それと、憑りつかれているのは私です。全部私が決めます」
「頑なだなぁ。あんまり鼻水しつこくかむと鼻血出るから気をつけろよ」
「出ることは稀です」
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