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「……ちっこくて可愛かったあの日に、融通を教えとくべきだったかな。子育てって難しいな……樹希(たつき)」
「いや、俺に振らないで下さいよ。子育てなんてそもそもしたことないですから」
局長は「そうか」と言って笑うと、穏やかな表情を一変させた。公(おおやけ)の顔になった彼は、眼光鋭く言い放つ。
「さて、こっからは俺からの命令だ。春陽(しゅんよう)の刀を封印する」
「なん――! それでは実質、鼓を消化できない」
「消化する必要はないだろ。さっき多数決でも決まったし。あと、お前は問答無用で怪異を斬り過ぎだ。その怪異にはまだ『自分』がある」
「……じゃあ、このまま憑り殺されろと?」
「極端だな。そうは言ってない。もう少し怪異の目線に立って考えて欲しいだけだ」
「そんな必要ありません」
「必要だから言ってるんだ。俺はお前にただの人殺しになって欲しくない。怪異にだって、人間の心が残っている奴がいるんだ。お前に消化されちまったら、そいつらには次はない」
「それは私たちだって同じです。消化し続けて、奴らに囚われたら、いつかは私だって消滅する」
「――だから喰ってもいい怪異と喰わなくてもいい怪異を見極めろ。そのために、しばらく刀を封印する」
納得がいかない。私から刀を取り上げるつもりか。これがなければ、私は怪異と闘うことができない。
「そう不機嫌そうな顔をするな。樹希(たつき)、春陽(しゅんよう)の刀を持て」
「え? あ、はい」
形だけ刀を差し出す。樹希(たつき)が刀を受け取ろうとするが、渡したくない。無言で引っ張り合いをしていたが、樹希が冷静に告げた。
「――渡せ、春陽(しゅんよう)。命令だ」
未練がましくしばらくは鞘を握りしめていたが、無理やり刀をはぎ取られる。私の愛刀はかちゃりと音を立てて樹希(たつき)の手に収まった。
継いで、局長が樹希(たつき)に呪言を繰り返すように言い、私はものの数分で丸腰にされてしまった。
刀を返されたとしても、これでは抜くこともできない。闘えない。無力同然にされたことに苛立ちを隠すことができなかった。それを意にも介さず、局長が口を開いた。
「刀の封印を解く方法は4つある。怪異を無理やり腹に収めるか、昇華させるか、樹希(たつき)に解呪してもらうか、樹希(たつき)を殺すかだが――怪異を喰うのは、禁止だ。やるならそれ以外の方法にしろ。破ったときは、お仕置きだ」
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