第4話

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 死に怯えた表情。自分の一部が見つかり、安堵する表情。世間話に華を咲かせる姿。他人を心配する姿。今も私の着替えを見まいと、後ろを向いている。幽霊のくせに。身体なんてもうどこにもないくせに。もう、この世に残っているのは『想い』だけのくせに。  どれをとっても、人間そのもののような気がした。でも、惑わされてはいけない。怪異はいつか人間性をすべて捨てて化け物になる。羨ましいなどとは思わないが、純粋な思いだけでこの世にとどまれるのは、ある意味で幸せなのかもしれない。  私はもう、何も考えず、何も追わずに、あの人だけに憧れて追い続けることはできないから。自分の師が、樹希(たつき)が、仲間が、私の事を想ってくれていることを知っている。だから私は、自分の仲間を二度と怪異が傷つけないように、この世から排さなければならない。  そのために今、できることは――と考え、夢の中で見たことを精査していく。  河のせせらぎ、桜の花びらに街燈ひとつない深夜の逢瀬。  河が近くにあり、桜の木が植わっている場所が殺害現場のはずだ。街燈もなく、人目を忍んだ逢瀬に向いている場所と言えば――桜の古木の怪異が発生した隅田川。そこで鼓を見つけたのだから、殺されたのはあの場所で間違いはないだろう。  殺害現場は分かったが、あの夢からは皐月(さつき)宗助(そうすけ)と名乗る怪異の身元が判明するような情報はなかった。こうなると分かっていれば、もっと注視したのに。  明日もこの煩わしい怪異と共に身元捜索をしなければならない事を考え、辟易した。
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