第4話

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 12月19日、藤(ふじ)皐月(さつき)が自宅にて服毒し死亡。  同日、藤(ふじ)皐月(さつき)の部屋にて松木(まつき)忠雄(ただお)が服毒し死亡。  遺書の内容から心中と見られる。  酷く短い文章で事件の終りが綴られていた。それを見た皐月(さつき)宗助(そうすけ)――もとい、藍澤(あいざわ)宗助(そうすけ)がぽつりと寂しそうに呟いた。 「ああ、そうか……鼓の音は、彼女と待ち合わせの合図だったんです。どうして、皐月(さつき)さんが死ななければならないのか」  ポタポタと開かれた目からは涙が流れ出ていた。まるで人のように。心を引き裂かれるような得難い感覚が、胸中に広がる。  もう、愛しい人の笑顔を見ることができないことが悲しい。  もう、愛しい人をこの腕に抱くことができないことが悲しい。  もう、愛しい人の声を聴くことができないことが悲しい。  苦しくて、辛くて、今にも叫びだしたい。  春陽(わたし)には関係ない。  そう一生懸命、自分に言い聞かせるが同化が思ったよりも進んでいるらしく、私が大事な人を喪ったかのような錯覚に陥りそうになる。何とかそれを堪えようとするが、感情の奔流は押しとどめることはできず、強い感情に呑まれてしまう。 「ダメだ。――宗助(そうすけ)さん。辛いだろうけど、感情を抑えてください。春陽(しゅんよう)が呑まれてる」  私の目から涙が零れ落ちる。あまりの悲しさに、今すぐ死んでしまいたくなる。  すぐにでも、あの人のそばに――藤(ふじ)皐月(さつき)の傍にいきたい。  隅田川のあの思い出の地へ。
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