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目が眩むほどの光が、三人を照らしていた。影は色濃く畳に映し出されている。
局長の手の中で弄ばれていたジッポが、カツンと音を立て開き火が灯る。火は夕日の紅に溶けて消えた。
「この間――消化したんじゃなかったのか?」
「私が喰べたのは、女じゃありませんでした。あそこは未練がたまる場所です。処刑の場でもあり、人目を忍んで逢瀬を重ねる場でもある。エサがわんさと転がっている」
「藤皐月(ふじさつき)が妖化(あやかしか)したと?」
「可能性はあります」
「お前が仕留めそこなったって可能性は?」
何と答えるべきか。逡巡するも、どう言葉を発したらいいか分からなかった。
斬り殺した時には複数の人間の想いが流れ込んできていた。喰い殺した相手のどれが、松木忠雄(まつきただお)の記憶だったのか――想いだったのか分からない。多少なりとも、周囲の未練を喰らい他の怪異よりかは力をつけていたから。
「複数いたため、どれが松木忠雄(まつきただお)だったのか不明です」
「そうか」
もっと私が、怪異の成り立ちに興味を持っていれば、松木忠雄(まつきただお)が消化できたのか分かったかもしれない。
今まで私は一体何をしてきたのか問いたくなる。でも、それでも――私はまだ怪異を人間として見ることはできない。
あの日の怪異は、とても人間だったなんて思えない。手当たり次第に人を傷つけ、殺し、喰べた。喜びも、哀しみも、痛みも、全部。仲間の死体は見るも無残で、肉も魂も全てなくなっていたのだから。
目を瞑れば、今でも思い出す。血の臭気、外からの光を遮るほどの夥しい血が飛んだ窓、ぬるりと生暖かい血だまり、今まで笑っていた人たちの――私を可愛がってくれていた人たちの動かない体。家族を喪った私を支えてくれた、私の大切な仲間――家族の――。
「春陽、前を見ろ。今は後悔してる場合じゃない。後ろを振り向くのは、この件が解決してからでいい」
局長が煙を吐き出しながら、寂しそうに言った。
どんな言葉を発すればいいのか分からない私の横で、樹希が口を開く。酷く深刻で、いつもののんびりとした調子はどこかへ消え失せていた。
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