第5話

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「あそこには、怪異のエサがわんさと転がってます。もし仕留め切れていなかった場合、それらを取り込んで傷を癒せば、また怪異が発生するでしょう」 「下手したら、リバウンドしてもっと手ごわくなってるかもな。喰いでがあっていいじゃねぇか」  眩暈がする。頭痛が一際強くなった気がした。それを堪え、自分の希望を口にした。声が何故だか、ひどく震えてか細い声しかでない。 「刀の封印を、解いてください。私が処理をします」 「俺と、お前の二人だ。二人で対処するんだ」 「黙ってて。樹希(たつき)には無理」 「どうして」 「あんた、必ず救おうとするでしょ。そんなことしてたら、こっちが喰われてお終いよ」 「局長、許可を」 「怪異は、お前にとって単純に消化するだけの対象か?」  静かに問いかけてくる。私は自分にとって正解と思える方を答えようとするが、言葉が出てくることはなかった。 「それが今のお前の答えだ。迷ってる分、前よりはマシになったんだろうが……。今は急を要する。その状態で、お前を死地に送り込むことはできない。顔色も酷いし、今は寝て待て」 「それは、承服しかねます。仲間を死地に立たせて、自分だけ寝ているなんてできません。今、答えを出せというなら出します」 「言ってみろよ」 「怪異は倒すべき相手、無に帰すべき相手、消滅させるべき相手。これだけ知っていれば充分です。それ以外の答えは、いら、ない」 「それだと、封印はといてやれないと思うが……どうだ? 樹希(たつき)」 「私は――封印を解いてもいいと思います」 「どうしてだ?」 「彼女の能力があれば、無理やり藍澤宗助(あいざわそうすけ)を喰い殺すこともできるでしょう。禁止されていたとはいえ、春陽(しゅんよう)はそれをしなかった。それが、彼女の答えだと思ってます」 「そうだな。ことあるごとに言いつけを破るやつだからな」 「ですが、今は別の意味で解きたくありません」  局長は顎を撫でながら、黙って耳を傾けている。樹希(たつき)はそのまま続けた。  前をずっと向いていたかったが、胸の辺りが苦しくて、話の途中で思わず下を向く。ぽたぽたと汗が畳に染みを作った。
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