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「封印を解けば、おそらく彼女は飛び出していくでしょう。今の状態で怪異と対峙すれば、死ぬと思います。だから、今は解きたくありません」
「分かった、お前の判断だ。それに従おう。誰だって……死ぬ――見た……からな」
二人の声が遠くに感じる。顔を上げることもできず、視点すら定まらない。それどころか目の前が薄ぼんやりと滲み、視界が白く塗りつぶされていく。それでも、彼を一人で行かせることはできない。あの性格は、優しすぎて荒事には向かないから。
ふいに体が傾いだ気がした。目の前が真っ白になり、次いで訪れたのは暗闇。誰かに受け止められた気がしたが、目を開ける余裕すらなく徐々に意識が薄らいでいく。その中で、床を蹴る音がやけに大きく聞こえた。次いで耳に入ってきたのは、凶報だった。
「隅田川にて、怪異が――」
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