3人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
「春陽(しゅんよう)さん」
「――――っ」
柄を力いっぱいにぎり、自らの魂を注ぎ込む。怪異との戦は文字通り、互いを喰らう。
――共喰い。
今まで振り払っていた考えが押し寄せる。それを無理やり振り払い、藍澤宗助(あいざわそうすけ)の魂を喰らう。自分の中で、何かが外れた気がした。
彼の悲鳴が聞こえてくる。耳をふさぎたくなるような断末魔が。服の袂(たもと)に入れた紐が、熱を持ち、一瞬で冷たくなった気がした。そして、私の中に彼の記憶が流れ込んでくる。最期まで。
生まれた時の記憶、両親の記憶、友人や恋人の記憶。嬉しかったこと、悲しかったこと、悔しかったこと、今までの藍澤宗助(あいざわそうすけ)の記憶が全て。
徐々に同化し、消化していく感覚が身体を支配していく。今、まさに私は藍澤宗助(あいざわそうすけ)を喰らっていた。
やがて、彼の気配が立ち消えた。今は残り香のようなわずかな残滓が、紐にあるだけ。
次に集中するのは刀。今まで抜けなかった刀が、徐々に鞘から出てくる。あと一歩。あと一息で、封印を喰らいつくせる。
最後の抵抗とばかりに、強い力の気配がした。それを破るために全身全霊で、宗助(そうすけ)を自分の力にする。一筋、目から何かが零れ落ちるのが分かった。
目の前がにじみ、私の中の人間だった部分が眠りにつこうとする。が、ギリギリのところで堪えた。
でも、飢えだけはどうにもならない。
腹が減った。とてもとても。手当たり次第、喰い散らかしたい。
人を。記憶を。魂を。目の前の全てを。
「うあああああああああああああああああああああああああああ」
裂帛の気合と共に抜き放った私の牙が月光を受けて、ギラリと光る。目の前に迫っていた根を切り落とし、地を蹴った。
――私は、獣だ。
最初のコメントを投稿しよう!