第7話

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「春陽(しゅんよう)さん」 「――――っ」  柄を力いっぱいにぎり、自らの魂を注ぎ込む。怪異との戦は文字通り、互いを喰らう。  ――共喰い。  今まで振り払っていた考えが押し寄せる。それを無理やり振り払い、藍澤宗助(あいざわそうすけ)の魂を喰らう。自分の中で、何かが外れた気がした。  彼の悲鳴が聞こえてくる。耳をふさぎたくなるような断末魔が。服の袂(たもと)に入れた紐が、熱を持ち、一瞬で冷たくなった気がした。そして、私の中に彼の記憶が流れ込んでくる。最期まで。  生まれた時の記憶、両親の記憶、友人や恋人の記憶。嬉しかったこと、悲しかったこと、悔しかったこと、今までの藍澤宗助(あいざわそうすけ)の記憶が全て。  徐々に同化し、消化していく感覚が身体を支配していく。今、まさに私は藍澤宗助(あいざわそうすけ)を喰らっていた。  やがて、彼の気配が立ち消えた。今は残り香のようなわずかな残滓が、紐にあるだけ。  次に集中するのは刀。今まで抜けなかった刀が、徐々に鞘から出てくる。あと一歩。あと一息で、封印を喰らいつくせる。  最後の抵抗とばかりに、強い力の気配がした。それを破るために全身全霊で、宗助(そうすけ)を自分の力にする。一筋、目から何かが零れ落ちるのが分かった。  目の前がにじみ、私の中の人間だった部分が眠りにつこうとする。が、ギリギリのところで堪えた。  でも、飢えだけはどうにもならない。  腹が減った。とてもとても。手当たり次第、喰い散らかしたい。  人を。記憶を。魂を。目の前の全てを。 「うあああああああああああああああああああああああああああ」  裂帛の気合と共に抜き放った私の牙が月光を受けて、ギラリと光る。目の前に迫っていた根を切り落とし、地を蹴った。  ――私は、獣だ。
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