第8話

4/4

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
 喰う側か喰われる側かは一瞬で決まる。私は負けるわけにはいかない。藍澤宗助(あいざわそうすけ)を喰ったのだから。藤皐月(ふじさつき)を助けるために、樹希を助けるために。だが、古木を斬れば彼女も一緒に消滅するだろう。すでに同化は進んでいて、切り離すことができない。私一人の力では……。 不意に、古木の根が動く。が、鈍い。樹希に松木忠雄(まつきただお)の攻撃を任せ、突っ込む。斬るために。あの怪異の全てを喰らいつくすために。 「あああああああああああああああああああああああああああ」  気合と共に古木に牙を突き立てる。手ごたえがあった。  藍澤宗助(あいざわそうすけ)を飲み込んだとき同様、様々な記憶が自分の中に流れ込んでくる。人ひとり分ではなく、先日とは比べ物にならないくらい、大量の人の全てが。一瞬、自分のほうが飲み込まれかける。  辛い。悲しい。壊したい。殺したい。喰らいたい。喰らいたい。喰らいたい。喰らいたい。喰らいたい喰らいたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい。  少しでも消化しようとするが、器から力が溢れ出していた。わずかな抵抗も無駄に終わり、抗えない。このまま、堕ちるくらいなら――。 「春陽(しゅんよう)! 春陽、こっちを見ろ。こっちだ。おい、おい!!!!!」 「ああああああああああああああああ」  だんだんと自分が人から、化け物へと変化していく気がした。どこからが自分の『記憶』で、どこからが他人の『記憶』か分からない。境界線がどんどんあいまいになり、やがて。 ナニカガ、私ヲ内側カラ支配スル――。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加