第9話

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 今まで、怪異を助けたいなんて思ったことはなかったから。  引きちぎられた紐と、衝撃で折れた枝。そこに、ぽたぽたと何かが零れ落ちた。  雨は降っていないのに。水滴は、私の目から溢れ出たものだった。どうして泣いているのかは分からない。でも、私はきっと答えを見つけた。 「二人に意識を集中させろ。分け与えるんだ。春陽(お前)自身を」  私の中にいる藍澤宗助(あいざわそうすけ)に集中する。心の奥底がふわりと温かくなるのを感じた。その感覚を中心に命を守るように彼の存在を包み込んでいくと、周囲が光に包まれた。隣を見ると、桜の枝を手に樹希(たつき)が同じことをしている。彼のそばには、藤皐月(ふじさつき)が立っていた。私の中から、藍澤宗助(あいざわそうすけ)が出てくるのを感じる。  二人は手を取り合うと、互いの存在を愛しむように手を絡めた。私たちは何も言えず、向こうも何も言っては来なかったが幸せそうな二人の笑顔を見て確信していた。私が初めて取った道は、間違いではなかったことを――。  冬に吹く、身を凍らせるような冷たい風に乗って、桜がそれぞれの想いを乗せて去っていった。 おわり。
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