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「いい加減にしろ。怪異にだって、こうなった事情があるはずだ。基は人だったんだから。喰い殺すだけじゃなくて、穏便に解決することだってできるだろ」
「穏便に?」
「未練を断ち切ってやれば、どっか行く。あの世だか何だか分からないが、次に行けるんだ。消化しちまったら、そいつらはそこでお終いだ」
「毒を食らわば皿まで。毒を以て毒を制す。これが、私たちの隊が作られた理由でしょ」
「だとしてもだ。一度、持ち帰ろう。どうにもならないとわかった時点で、喰えばいい。その分、怪異の毒も自分の体に入るけどな。ほらよ」
樹希(たつき)が鼓をひょいと持ち上げ、私に投げてよこす。その瞬間、背筋を冷たいものが通った。
反射的に鼓を投げ捨てようとするが、身体がそれを拒否する。嫌な予感がするが、時はすでに遅く。
「嬉しい知らせがあるぞ。あんたのせいで、私が憑りつかれた」
「え……あ、ええ!? なんだこの音、何も聞こえないぞ」
「やっと聞こえたか。じゃあ、行くぞ!」
「どこに!? おい、やめろ、手を斬り落とそうとするな!!」
「止めるなバカ。憑りつかれたのはあんたのせい! 私がどう対処しようが、勝手でしょ」
「だからって手を斬り落とそうとするな! 屯所に戻れば何か手があるだろうから、落ち着け」
「今すぐどうにかしたいの! 気合があれば手だっていつかは生えてくる!!」
「生えてくるわけないだろ!! 落ち着け」
「生き恥をさらすくらないなら――」
「絶対に鼓だけ野生に還す方法があるから!!!」
「離せ、バカ!!!!!!」
「手も一緒に野生に還したらまずいだろ!!」
「問題ない」
「問題ある! 俺、血がダメなんだよ――」
こうして、怪異が発生する霊場――隅田川での夜は更けて行った。
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