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少しくすぐったそうに身をよじる弟は、更に近づいてきて、 「どうする? 世界は今もなお、侵されていっている。でも、僕がお兄ちゃんに事実を伝えた今、お兄ちゃんは世界の侵食を…つまりは妊娠を。止めることができるんだよね」 囁く。 「……どうって、……まだ、その話が本当かもわかんねーし……っ、どうするのが正解か、なんて……」 「そう、だよね」 小さく微笑んで、また続ける。 「二択……もし、ここで止める方を選べば、世界は少し僕ら似の人が多くなるくらいで、きっとある程度元に戻る。ただ、僕かお兄ちゃん、もしかすると両方の姿も変わる。美しき姿が美しくなくあろうとする矛盾によって、消える。 ただ、止めない方はごくごくシンプルに、世界が全て美しき者になる」 「そう……か…」 もはや、話を疑うことすら忘れていた。 美しさを捨てるか、世界を捨てるか。ただの二択は俺にとって、それほどにインパクトのあるもので。 囁くために俺の横へと移動していた弟の顔が、また正面へ移動する。 さらりと髪は耳から滑り落ち、一瞬跳ねて。それらに縁取られた柔らかく白い、陶器などをとうに越え、この世の何にも例えられないほどに美しい頬が滑らかに動いて次に見えたのは長く延びた睫毛が、華やか、と一言言うには相応しくない。軽く伏せられた瞳をより切なげに、より透き通るために完璧に配置される。 黒から深い茶色へとグラデーションされた黒眼に、近くで見ると青みがかった白が魂を吸われてしまいそうな程に冷たい白眼。 「僕の意見。まだ言ってなかったけど……」 優しく一言呟く。その間にも話し、息を漏らす度に官能的に姿を変える唇は、思わず指を這わせたくなるほどに柔らかく。 「当然だけど、僕は美しいものが好きなんだ。……ふふ、お兄ちゃんのこと。お兄ちゃんの美しさ──── 大好き」 嗚呼、世界などどうでもいい。弟と俺と、美しさと共にあるために。 この世の、終わりだ。何度そう叫んでも、終わりはやってこない。俺×俺は、新たな俺となり、そしてその俺はまた俺×俺を繰り返す。  俺はここに存在し、俺は一でも零でもない。ただただ、それだけの事で、世界は永久に、終わらない。 しかし、これでいいのだ。 この美しさは、終わらせない。
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