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「せ、先輩すみません」
俯く私、こと"颯姫(さつき)"を先輩は優しく慰めてくれるも、それではなんの解決にもならない。
ここは『なごみんランド』
『なごみん』というキャラクターを全面に押し出してレジャーランドとして長年親しまれてきたが、この不況の折、倒産寸前の土壇場まで追い込まれた。
そこに、救世主が現れた。
それこそ、私の先輩であり彼(予定)の快斗さんで、鷹匠の一族を、三十の若さで束ねるすごい人。
持ち前の鷹匠としての技術を生かしたバードショーで、なごみんランドの来場者数をV字回復させた憧れの人。
暑苦しい『なごみん』の中でひぃこらやってた私は、ショーの合間のピエロとして、たびたび先輩と同じ舞台に立ち、演技を見てきた。
カッコイイ。
イケメン~とか、ファッションが~とかじゃなくて、純粋に。
もちろん、顔もいいんだけどね。
短く刈り上げたワイルド系男子な先輩。
ほどよくついた筋肉は、いわゆる、『脱いだらスゴいんですよ』で、服の上からは目立たない。
いわゆる細マッチョ。
鷹と一体になって演技をする先輩はひたすらに眩しくて、私の憧れ。
それが、恋心に変わるまでに時間はかからなくて、でも、着ぐるみの中の私には、先輩と話せるチャンスなんて中々なかった。
が、である。
私にもチャンスがやってきた。
「『なごみん』も鷹匠になってバードショーをやろう」
経営を大きく傾けた責任はどこへやら。
未だに実権を握るアホな社長の一声で、私もバードショーを行うことになり、先輩に直々に見てもらえることになった。
……今だけはアホ社長を誉めてあげてもいい。
が、私には才能はない。
と、いうより、そんな簡単に覚えられるわけがなく、一週間つきっきり、先輩の休みの日にまで見てもらったのに、今のところ全く持って成果なし。
と、いうのも、相棒たる、鷹の『アヤツ・オジャマムシー』が全く言うことを聞いてくれない。
いや、理由は分かってる。
アヤツは先輩、快斗に恋をしてる。
自分でも馬鹿な発想だと思う。
けれど、間違いない。アヤツの先輩を見る目はうっとりしていて、恋する少女のもの。
対して、私に向ける目は、思いっきり見下した目。
正直、ライバルとも認識されず、ただ、
「フフフ、ゴミが何かほざいてるわ」
と、言われている気がする。
…………いつかフライドチキンにしてやる。
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