13人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日のリハーサルは、素晴らしいものになった。
今までになく従順なオジャマムシー。
私の一挙一動に合わせて、大空を縦横無尽に動き回り、観客たる偉い人はおろか、先輩も目を見張った。
ーー終わった。
全ての演技を終えて、私は控え室に戻った。
これで終わったんだ。
先輩のことも、これで終わり。
明日からは、再び『なごみん』として、先輩に並んで、ステージ上でピエロを演じればいい。
もう、その背中を追い掛ける必要もない。
「やぁ、お疲れさま!」
先輩が私の背を優しく叩く。
ふと、オジャマムシーを見れば、またそっぽを向いていた。
いつもと同じ行動だけど、今回ばかりは武士の情けといったところか。
ならば、甘えさせてもらおう。
「はい!あの、私、快斗さんのことが好きです!」
『キッ、キッ?』
オジャマムシーが驚いて鳴き声をあげるが、知ったことじゃない。
「私とお付き合いしてください!」
先輩が私の背中に手を回してきた。
「ありがとう。
僕も、頑張る君の姿をみてたら……」
ゆっくりと先輩の顔が近付いてきて、私も目を閉じる。
フフ、かかったわね、オジャマムシー。
そう、私は確かに『先輩を諦める』と言った。
だから、『先輩』を追い掛けるのはやめた。
対等の立場から、告白することにした。
結果は大成功。
なおも暴れ続けるオジャマムシーをよそに、私たちのシルエットは重なって……。
「む、オジャマムシーがこんなに暴れるなんて、どこか悪いのかも知れない。
とりあえず、この続きはまたにしよう。
颯姫さんは、先にあがっていいよ」
「え、でも私も」
「大丈夫だから。
颯姫さんがケガをする方が困るからさ」
う、そう言われたら引き下がるしかない。
く、オジャマムシーめ。
最後の最後で私の邪魔してくれちゃって!
次こそは!
この日から、私と『アヤツ』との戦いが始まった。
最初のコメントを投稿しよう!