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ぶつかりそうになるのを、哲郎は肩をかわして見送った。視線を戻そうとすると、
「てめえ、逃げてんじゃねーよっ」
トモキの声と共にその体が弾むように突進し、逃げようとした男の首根っこを後ろからわしづかみにした。
男は詰まったうめき声をあげて動きを止められる。
「なあ、おれがそう簡単に逃がすとでも思ってるのか?」
トモキの前腕に血管が浮くと、驚くべきことに、男の体が徐々に吊り上げられていった。
目を見張る怪力だ。
「お前、いっぺん死んどけ」
トモキの右腕一本で男は体を浮かされ、つま先立ちになってようやく自重を支えている。
その顔は苦しみに歪み、トモキから逃れようと両手で自分の首を子猫のようにかきむしった。
「許して、許して、許して」
男が繰り返す泣き言にトモキは、
「チッ」
とつまらなそうに舌打ちし、足をあげて男の背中を蹴り飛ばした。男は地にめり込む勢いで大地に張り付けになる。
「あーあ、終わりかよ」
トモキはつかつかと歩み寄ると、男の腹に靴の先を突っ込んだ。その体をゴロンと仰向けにひっくり返す。
「つまんねえ、つまんねえ、つまんねえ!」
言葉と同じ数だけトモキは男の腹を踏んだ。
「ゲボオッ」
腹を蹴られた男は胃の中の内容物を鼻から口から噴き出して悶絶する。
それは辺りをまき散らし、トモキの靴にはねて汚した。
「汚ねーな」
トモキはますます不機嫌そうに頬をゆがめ、
「退屈なんだよ。まったく……」
サッカーのシュートのように男を蹴ると、漫画のように軽々と転がって、その体は壊れた人形のようにダランと横たわった。
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