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「何、見てんだよ」
靴に飛んだ吐しゃ物を、憎々しげに地面になすりつけながら、トモキは低い声で哲郎に言った。
チラリともこちらを見ていなかったのに、それでも存在には気づいていたらしい。
トモキは口の中で唸った。
「おれに文句でもあるのか?」
ギラリとこちらに向ける視線は、まるで飢えたライオンだ。牙から人血を滴らせ、まだ喰い足りないと吠える肉食獣。
収まりきらない興奮を持て余し、今にも飛び掛ってきそうなその様子に、哲郎は思わず、
「あ、先生が探してる」
用件を伝えた。
「……は?」
拍子抜けした声でトモキは問うた。哲郎はもう一度繰り返す。
「今日、おまえ日直だろ? 先生が探してるんだよ」
トモキは珍しいものでも見つけたように、哲郎を上から下まで嗅ぐように眺めた。
うっとおしいと哲郎は眉間に皺をよせて、
「おれを知らないのか? 同じクラスの日下だ」
と教えると、トモキはポンと手を打つ。
「あー、あー、あー」
その嘘っぽい動作は、どうやら本当に覚えていないらしい。
まだこの高校に入学して1週間だから、無理ないといえば無理ない話なのだが、同じクラスになってずっと隣の席に座っていた自分の存在感に、ちょっと自信が無くなってしまう。
「おまえ宇城だろ。『う』だから出席番号、早いんだよ」
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