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「もしかして、これは…」
死の恐怖は湧かなかった。俺は勇敢であると決めたのだから、もう見据えるのは英雄として名を馳せる未来のビジョンのみ。クワガタ達のビーム発射と共に、身体能力に物を言わせて空中へ回避。すると、さっきまでとは違う魔獣の行動に目を見開いた。ビームを発射したのは、半分のクワガタのみ。もう半分のクワガタ達は、空中へ逃げた俺を追って砲身を向けていた。
「やっぱり、こいつは死にイベントかっ」
空中ではスキル発動もできない。苦し紛れに二本の剣を盾にするが、32方向からのオールレンジ攻撃に対処できる筈もなく、全身が熱線に焼かれ、俺は自分の体が今まで倒してきた魔獣のように砕け散るのを感じた。
さっきGMが言っていた『チュートリアルはこれでお仕舞い』というのは、つまりこういうことなのだ。俺も頭のどこかでその可能性に気付いてはいたが、試しに死んでみるわけにもいかず、考えないようにしていた。この世界で死んでも、ゲームだから神殿かどこかで生き返れるのではないかという可能性を。
その可能性が、どうやらアタリのようだった。暗転した視界。途切れた意識。目を開けると、俺は晴れた空を見上げていて、背中にはとても硬い感触があった。起き上がると、まるでMMORPGの定期メンテ明けにログインした時のような光景が広がっていた。
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